高森町
熊本県阿蘇郡高森町
九州の中央、熊本県の北東部に位置する阿蘇・高森町。東部は大分県、南部は宮崎県に接している。阿蘇の雄大な景観を作っているのが、世界一のカルデラと言われる外輪山と、カルデラの中にある阿蘇五岳と呼ばれる火山たち。熊本空港からクルマで約40分。神々しいほどの阿蘇に近づいてくると、活火山ならではの、地中から湧き上がってくるようなエネルギーと大地の鼓動が感じられてくる。
阿蘇山は、火の国、熊本のシンボルであり、高岳、根子岳、中岳など5つの山々が寄り添うように連なる阿蘇五岳、火口源を囲む外輪山なども含めた総称をさす。外輪山は南北25キロ、東西18キロ、周囲128キロにもおよぶ世界最大級の火山だ。火口原には約5万人が暮らし、阿蘇市、高森町、南阿蘇村、3つの自治体からなる。
高森町は阿蘇山の南に位置する人口約6600人ほどの町。高森、色見、草部、野尻の4つのエリアに区分され、それぞれに特徴ある風土を形成している。
町のシンボルとも言えるのが、阿蘇五岳のひとつである「根子岳」。山の峰が猫の耳のような形をしていることからついた可愛らしいネーミングに反して、ギザギザと切り立ったノコギリ状の稜線は猛々しく男性的だ。そして、阿蘇山の伏流水と、地中からコンコンと出てくる湧水。この天然ダムの恵みが、高森の酒、味噌、醤油など豊かな食文化を支えてきた。
高森町には、神話や民話にまつわる地名が多く残り、神社や巨大杉などが点在するパワースポットの町としても知られる。草部吉見神社は鳥居をくぐった後、階段を下ると本殿にたどり着く全国でも珍しい「日本三大下り宮」のひとつ。樹齢700年とも推定される御神木でもある巨大杉は、直径7.7メートル、高さ40メートルを超す大木で、霊験あらたかな雰囲気だ。上色見熊野座神社は、境内後方に、大きな風穴が貫いた、縦横10メートル以上の「穿戸岩」と言われる巨大な岩山があり、「どんな困難でも必ず達成できる象徴」として合格やご利益を祈願する人が多い。
高森町が「日本で最も美しい村」連合に加盟したのは2013年10月。登録されている地域資源は、千年以上の昔から人々による「野焼き」で維持管理されてきた広大な草原。そして、毎分32トンもの水量を湧出する「湧水トンネル」。それに夏の風物詩、「風鎮祭」。この祭りは、強い風が吹き抜ける地形の高森町で、260年もの前から、風を鎮め、五穀豊穣を祈る伝統行事だ。
時折、硫黄のにおいが鼻をかすめ、中岳火口から上がる白い噴煙を遠目に望む。世界農業遺産にも認定された草原と、その草を食むあか牛。火山灰地質を生かして作られる高原野菜。寒暖差によりそのうま味がキュッと引き締まったお米。
「火」、「水」、「土」。そして、阿蘇と共に生きてきた高森の「ひと」。高森の大地は、火山と人々、そして神々のパワーに満ちている。
2017年1月取材
執筆:髙橋秀子 撮影:田村寛維