阿武町

山口県阿武郡阿武町

山口県の北部に位置する、人口約3000人の・阿武町。ここが隣接する萩市にぐるり周囲を囲まれる特殊な立地となったのは、約20年前のことだ。全国で「平成の大合併」が推進された当時、阿武町は自主自立の道を選択。足元にある宝を守り、小さくても一人ひとりの顔が見える「美しい町」として海にも山にも、ここにしかない個性を存分に輝かせている。

山陽新幹線新山口駅から車で約1時間。海沿いの道を走り、萩市内で最後のコンビニエンスストアを超えてからしばらく進むと、大きな建物と広い駐車場が見えてきた。阿武町の中心地であり、1991年に道の駅第一号として誕生※ した、「道の駅阿武町」だ。
店内に入るとまず、目に飛び込んでくる黒山の人だかり。その中心を覗くと、日本海で獲れた新鮮な近海魚がところ狭しと並んでいる。しかも、どれも目を疑うような破格で。鮮魚は遠方への発送は難しいが、それでもこの売り場の価格と品質を知る人が次々に訪れ、流れは絶えることがない。バックヤードから新たにとれたての魚が補充されるごとに、あちこちから手が伸び、ぐるりと陳列ケースを囲んで嬉しそうにパックを抱える人の輪ができる。その笑顔がまた、この場所に華やぎを呼び込んでいる。 
1階奥には、そんなご当地自慢の鮮魚をはじめ地元食材を活かしたレストラン、そして2階には日本海を一望する温泉施設が。さらに隣には温水プールがあり、2022年には海辺にキャンプ場もオープンした。道の駅の原点であり、理想を体現したようなこの施設を見るだけでも、人口わずか3000人とは思えない「阿武町ここにあり」の存在感が光っている。
イタリア国内にありながら独立国家を形成する彼の国になぞらえて「ここは日本のバチカン市国です」とは花田町長の言葉だが、平成の大合併により、海岸線を除く周囲をぐるり、萩市に囲まれた現在の姿に悲壮感はもちろんない。むしろこの規模を守ったからこそ、きめ細やかな政策が住民の願いを的確に捉えるとともに、「地域の宝を地域で守り、支える」という自治意識を育んでいることが、各地への取材からも伝わってきた。町内は「浦方」と呼ばれる海岸線沿いの地域と「地 方」と呼ばれる山間部の地域に大別されるが、そのどちらでも先進的・先駆的な地域振興の取り組みが実践されているばかりか、「まだまだ、やってやろう」の気概に満ちている。優良事例のデパートであり、個性あふれる魅力的なプレイヤーの宝庫。その熱にただ、驚かされた。
「日本で最も美しい村」連合への加盟は2022年。現在最も新しい加盟町となった。このきっかけも、住民からの提言だったと聞く。「新しい加盟町として阿武町の取り組みをお伝えするとともに、みなさんの事例を知り、学びたい」と町長は話すが、先輩町村地域もまた、阿武町の実践に刺激を受けるのではないだろうか。「新しい風は活力になる」との農事組合法人うもれ木の郷・田中敏雄さん(P10)の言葉にならって、私たちも阿武町の風を受け、いま再び足元を見つめ直してみたい。
※1991年に道の駅実験施設としてオープン、道の駅認定は1993年

2025年1月取材
執筆:玉木美企子 撮影:戸倉江里