江差町
北海道檜山郡江差町
函館空港から国道227号線を西へ。緑のトンネルのなか、1時間ほど車を走らせると、波しぶきをあげる日本海が見えてきた。海沿いの道をしばし進めば、町のシンボル・鴎島はすぐそこ。栄華を極めた北前貿易の記憶は、今もこの町の暮らしに溶け込み、たしかに受け継がれている。
北海道南西部に位置する江差町。江戸時代に江差沖で突如始まったニシンの豊漁を機に、この地はかつて北前貿易の終着点として「江差の五月は江戸にもない」と言われるほどの栄華を極めた。きっとこの海の向こうから、多くの船乗りたちが一攫千金の夢を抱き、荒波を越えてきたのだろう。天然の良港として愛された「鴎島」には、最盛期には千艘を超える船が身を寄せたという。
こうした繁栄とともに江差で育まれていったのが、多彩な文化だった。船乗りたちの愛唱歌であった江差追分に、華やかなりし時代の面影を色濃く残す大祭「姥神大神宮渡御祭」、江差餅つき囃子、獅子舞など、北海道指定の無形文化財9つのうち6つを江差発祥のものが占めるほか、「檜山郡」の名に相応しく檜製品や漆文化を今に伝える取り組みも続いている。
まさに地域資源にあふれたこの町が「日本で最も美しい村」連合に加盟したのは2014年のこと。照井町長はその想いについて「わが町こそ『美しい村』にふさわしい、そう考えると同時に、他の加盟町村地域との交流によって課題を共有し、それぞれの事例に刺激を受けられることに魅力を感じた」と語った。
そう、いかに歴史と文化に恵まれた場所であっても、人口減少等の地域課題は他の地方と同じ。現在の人口は7015人、町も新たな産業振興に加え、交通手段の拡充や教育環境の整備など、住み続けたい町づくりのための施策に取り組んでいるところだ。
しかし、取材を通して強く感じたのは、この町には深いシビックプライドを胸に、町の未来を想い、すでに行動を始めている人が随所にいる、ということだった。「これから、どうすれば?」との問いに対する答えは多様であり、その多様さの分だけ、町は多方面に輝く魅力を放つ。そして、行動する一人ひとりの熱が、「もう一度訪ねたい」「あの人に会いたい」と、この町への吸引力を高めている。
歴史を受け継ぎ、いまを生きる。口にするのは簡単だが、実践することの難しさは年々増している。それでもこの町の人は、一度失えば二度と取り戻すことができないものがあることを知っている。だから誇りをもって伝えていく。その顔には、それぞれの「大切なもの」を守り続ける人の爽やかな笑顔がこぼれていた。
2022年10月取材
執筆:玉木美企子