木曽町
長野県木曽郡木曽町
山ふところに抱かれた木曽町は、文字通り、山が近い。8月。山に重なる見事な入道雲も、ざーーっと音を立てる夕立で、山が丸ごとシャワーを浴びる壮観な光景も、ここでは間近に見ることができる。夏の火照った空気を冷ましてくれる夕立は、山に浸み込んで、磨かれ、蓄えられるのだろう。生まれてくる清冽な水の恵みのイメージが、容易に湧いてくる。山が近いと、自然のメカニズムの偉大さとも隣り合わせだ。
木曽町は、2005年(平成17年)に、木曽福島町、日義村、開田村、三岳村の四町村が合併して誕生した、約12000人の町民を擁する町。「日本で最も美しい村」連合には、連合発足翌年の2006年に、木曽町開田高原が加盟。以来、旧開田村地区が中心となり、その価値観の浸透をはかってきた。
古くから信仰の対象とされてきた御嶽山、宿場や関所が置かれた中山道の木曽路、伊勢神宮に納められることでも知られる木曽ヒノキ、貴重な日本在来馬である木曽馬と、日本を代表する文化と自然がそろっている。「なんにもないけど、いいところ」と表現されることも多い「日本で最も美しい村」連合の加盟町村にあって、木曽町はずいぶん、さまざまな資源に恵まれた町だ。合併したため、規模も大きい。それらが、“美しい村” であることを、難しくすることもあるだろうと想像する。
木曽町で、「“美しい村” とは哲学だ」と言った人がいた。この町は、その具現化こそを目指すのだと。地域おこしの柱として掲げる、ヘルスツーリズムにも、スローフードにも、通底するのはそれだとわかる。当たり前のようにあったものの価値に気づくのがむずかしいのは世の常。合併後の町が一枚岩となって頑張るというのもまた、むずかしいに違いない。まだまだ課題が多いという町の取り組みに、Iターン、Uターンの人たちが加わって、共に知恵をしぼり、汗をかく木曽町。
崖屋造りの家々が並ぶ木曽川で、川遊びする親子を見た。絵に描いたかのような日本の夏休みの情景も、手が届きそうな山の、四季の表情も、地元の人にとっては、特別なものではないかもしれない。だけどそれらは、ここに訪れる人のこころを、きっと豊かにするものだろうと思う。世界遺産や、文化財のお墨付きがなくても、観光名所でなくても、美しい場所、ものはたくさんある。木曽町でも、たくさん出会える。昔から受け継がれてきた有名な財産と、隙間にあるような無名の財産と、どちらをも持つ “美しい村” 木曽町の、美しさへの挑戦は、「日本で最も美しい村」連合の挑戦そのものではないだろうか。
2015年8月取材
執筆:小林奈穂子(みつばち社) 撮影:丸橋ユキ