曽爾村

奈良県宇陀郡曽爾村

奈良県の東北端に位置し、三重県境に隣接する曽爾村。漆塗り発祥の地であり、神話や伝説など数々の物語が残る、歴史とロマンあふれる郷だ。村に一歩、足を踏み入れると、岩肌あらわな鎧岳、兜岳、断崖になった岩が屏風状に続く屏風岩など迫力ある自然景観が見る者を圧倒する。11月上旬になると、曽爾高原の一面のススキが見ごろを迎える。東京から電車とクルマを乗り継いで約4時間。大阪からは約1時間50分、奈良からは約1時間程度と京阪神からは日帰りで楽しめる。

奈良県曽爾村は、人口約1560人、9つの集落からなるコンパクトな村だ。村の中央を走る曽爾川が山を削り、谷を開き、やがてそこに人が住むようになったのが始まりという。
「ぬるべの郷」というキャッチフレーズで親しまれるこの村は、奈良時代、「漆部造(ぬるべのみやつこ)」という漆生産の拠点が置かれ、漆の原汁を採集して朝廷に納めていた歴史を持つ。
その昔、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が曽爾を訪れ、狩りに出かけた際、木の枝を折るとその木汁で手が黒く染まった。手についた黒い樹液を物に塗ったところ、光沢が出て美しく染まったことから、この地に「漆部造」を置き、日本で最初の「漆塗」が始まったと言われる。なお、「曽爾」という地名は、奈良時代の古事記にも登場しており、蘇邇、素珥、素児、などの変遷を経て平安時代中期に現在の「曽爾」に変わったとされる。「曽」には「石」、「爾」には「丘地」の意味があり、「曽爾」とは、石礫の多い土地をいう。
その地名の通り、村の大半は、約1500万年前の火山活動によって出来た山々が連なる「室生火山群」からなる。天に向かって突き刺さるかのように、雄々しい姿をした鎧岳、高さ200mほどの垂直な岩壁が連なる小太郎岩、鋸の刃のような珍しい岩が屏風を立てたかのように連なる屏風岩など、迫力あふれる景観も魅力の一つ。曽爾村が「日本で最も美しい村」連合に加盟したのは、2009年。「曽爾高原」と「獅子舞」が地域資源に登録されている。
年間で50~60万人が訪れるという曽爾高原のススキは、広さ約40ヘクタール。曽爾高原のススキは、昔からかやぶき屋根の材料として使われてきた。春には野焼きが行われ、初夏には鮮やかな緑あふれる一面の草原に。そして、秋には一面のススキが高原を埋め尽くすように群生する。日本一夕景が美しい村として、近年では外国人観光客も多く訪れるようになった。風に揺れ、太陽を反射して金色に輝く風景は、まるで切り抜かれた一枚の絵画のようだ。
散策に疲れたら、年間20万人以上が訪れ、温泉雑誌でも1位を獲得するほど人気の美人の湯「お亀の湯」、そして、奈良県唯一の地ビール「曽爾高原ビール」が楽しめる曽爾高原ファームガーデンへ。
歴史、神話、景観。そして、村を作る魅力は何と言ってもそこに暮らす「ひと」。ガイドブックでは伝えきれない魅力と見どころが詰まった、奥深い曽爾村へようこそ。

2016年10月取材
執筆:髙橋秀子 撮影:田村寛維