星野村

福岡県八女市星野村

星野村は福岡県の南部、大分県との県境部に位置する緑豊かな農山村風景が残る場所だ。「日本で最も美しい村」連合には2009年10月に加盟。「石積み棚田」「星野村ブランド『星野茶』」が地域資源に認定されている。急斜面に沿って精巧につくられた石積みの棚田は、天空に延びる巨大な山城を連想させる。人の営みの副産物として現れた「用の美」は、あるべき社会の美しいモニュメントに見える。

星野村の棚田の歴史は奈良時代にはじまり、ゴールドラッシュに湧いた江戸時代の人口増加とともに開墾が進んだと言われている。星野の棚田の美しさを際立たせている石積みの精巧さは、石垣を組む職人さん「がきつきさん」の教えのもと、農家の人々が自ら石を組み、その技術を継承して生み出されたものだ。
「日本の棚田百選」にも指定された星野村を代表する広内・上原の棚田は425枚、137段。大小の石の組み合わせによって描かれる幾何学模様が端正な美しさを生み出す。石は、田んぼを開墾する際に出たものが使われる。出てきた順に積み上げていくため、小さな石の上に大きな石が載ることもある。大き過ぎる石は火で炙って水をかけ、小さく割ってから使う。大きな石、小さな石が一見、無秩序に積み上げられたことで現れた幾何学模様は、日本を代表するランドスケープアートだ。こうした棚田が星野村には20か所以上ある。
そしてこのランドスケープ作品群は、食料を得るための目的であるとともに、災害時の緩衝としての役割も担っているという。全ての棚田に当てはまることではないだろうが、土砂災害への防備として作られ始められた可能性があるらしいのだ。
棚田をつくるために石を積んだのか、石を積むために棚田をつくったのか。生活のため、命のため、村人同士の繋がりのため。いずれにしても、営みから生まれた「用の美」棚田は星野村の人々にとってアイデンティティの象徴であるに違いない。
そして星野ブランドのナンバーワンは、高級茶「玉露」で知られる「星野茶」だ。星野村に居るとお茶づくし。どこに行っても「まずはお茶」からはじまる。
その棚田とお茶の国を未曾有の大災害「九州北部豪雨」が襲った。2012年7月11日から星野村に降り始めた雨は、13日の午後から14日の午前中まで集中的に星野村を襲った。村のいたるところで山崩れが発生し、土石流が石積みの棚田や茶畑に襲いかかった。幹線道路を含む多くの道路が寸断され、星野川は荒れ狂う濁流となって民家へも流れ込んだ。3日間降り続いた雨は、美しい村星野村に大きな傷跡を残した。
その日から4年近くが経った。崩れたままの石積みの棚田、猛威を振るった星野川の護岸は真新しいコンクリートで補修された。その白さが眩しく痛々しい。でも棚田を元どおり再興しようと奮闘する人々もいる。一つひとつ石を積んでいく。その中心は学生ボランティアなど星に導かれた若い力だ。

2016年1月取材
執筆:田中里佳