喜界町-2
鹿児島県大島郡喜界町
奄美空港から小さなプロペラ機に乗り込み、その先の海へ。「ちょっとそこまで」の路線バス感覚と思われる人の姿も多い、離島線ならではの雰囲気に包まれれば、まだ見ぬ場所を訪ねる旅への期待が一気に高まる。しかも奄美空港〜喜界島線は現在、「日本で最も短い航路」。飛行時間はわずか7分とも言われ、離陸したかと思えば青い海をのんびり眺める間もなく「着陸態勢に入ります」のアナウンスが流れる、そんなのどかさに、一気に心がほぐされてしまう。
周囲約48.6km、総面積56.82㎢。喜界島は鹿児島市と沖縄本島の間に連なる奄美群島の北東部に位置する、美しきサンゴ礁の島だ。大正時代には喜界村・早町村の二ヶ村に分かれていたが、1956年に合併(当時は喜界町と早町村)。喜界町として一島一町という現在のかたちになって、ちょうど70年を迎える。
年間平均約2㎜という世界有数の速度で隆起し続けるサンゴが形成する島の地形は「サンゴ礁段丘」と呼ばれ、最上段である「百之台」にある堆積物は、じつに約10万年前の海底に存在していたもの。そこから1段下るごとに8万年、6万年……と約2万年ごとの台地が階段状に続いていく。島のあちこちに地球という星の躍動を表す貴重な痕跡が現れており、じつは類い稀なフィールドとして、世界じゅうの研究者の知るところとなっている。
そうした希少性や価値を広く伝えながら、約6000人の島民にとっても足元の島の宝を見つめ直す契機となれば──と、町では町長・隈崎悦男氏を会長に2023年喜界島ジオパーク推進協議会を設立。2025年に「日本ジオパーク」に申請し、先ごろ晴れて認定されたばかりだ。いっぽう、「日本で最も美しい村」連合への加盟は2009年。地域資源として隆起サンゴの豊かな自然とともに、農業景観や阿伝集落のサンゴの石垣の風景が登録されている。小紙も2015年に島を訪れ、「オーガニックアイランド」の実現に尽力する朝日酒造ほかの取り組みをご紹介した。
そこから10年、今回の訪島は、当時に増して活気を帯びるこの島の賑わいに触れるとともに、人々の心のあたたかさを改めて感じる時間となった。琉球王の統治時代、島津藩からの統治時代、さらに第二次世界大戦後のアメリカ軍統治の時代も経験し、世界の波に翻弄されてきた歴史のなかで多くの困難があったことは想像に難くない。しかし、サンゴ由来のミネラル豊富な土壌と、地下ダムとして蓄えられた豊富な硬水のおかげだろうか、話す言葉や笑顔のなかには穏やかな海のようなおおらかさ、優しさがにじんでいた。
あちこちで明かりが灯る夜の居酒屋では、島人も旅人も隣り合い混ざり合って楽しげに杯を交わしている。庭や道の端には島バナナやパパイヤ、在来種の島みかんの木も悠々と茂り、「植えた覚えはないのに、いつのまにか庭に生えていたんだよ」と、季節の実りを惜しみなく分け与えてくれる。そんな一つひとつの出会いのなかに、この小さな島のテロワールそのものが込められているように感じるのは、きっと私だけではないだろう。
2025年10月取材
執筆:玉木美企子 撮影:戸倉江里