南小国町
熊本県阿蘇郡南小国町
南小国町は阿蘇外輪山の北側で、大分県との県境にある人口約4300人の町。「日本で最も美しい村連合」には、2005年10月の設立当初から加盟している。全国的に有名な黒川温泉があるこの町は、かつては無名の温泉地。住民の誰もが「何もない」と思っていた。町の未来を変えたのは、都会の価値観に縛られない逆転の発想。そこに暮らす人々の生きる姿勢や美しい心から、美しいふるさとは育まれてゆく。
阿蘇くまもと空港から車で南小国町に向かう。約1時間半のドライブは、世界最大級という阿蘇のカルデラ地形ならではの起伏に富み、視界には美しい草原や雄大な景観が広がる。南小国町は外輪山を越えたふもとにある。面積の81%が山林や原野で、農林業や牧畜をなりわいとしてきた。現在は地域ぐるみで景観整備に取り組んできた黒川温泉が国内でも人気の温泉地となり、多くの観光客が心なごむ田舎の原風景を求めてこの町を訪れる。
南小国町は九州最大の河川、筑後川の源流域だ。豊富で清らかな水が大地を潤し、あらゆる生命の源となっている。黒川温泉や満願寺温泉など良質な湯がこんこんと湧き、小国杉という立派な杉が育ち、米や野菜がおいしいのもすべて水の恩恵だろう。熊本は「火の国」、そして豊かな「水の国」でもある。
この町を訪れて感じるのは、ありのままの自然の心地よさ。そして、他力本願ではなく、自分たちの地域のことは自分たちで決める、という地元の人々の自立心や当事者意識の高さだ。やる気があって、お互いの顔が見えるつながり。それぞれの意見や想いを活発に話し合えるおおらかさと、住民の主体性が尊重される土壌がある。
南小国町は30年近く前から民のパワーを中心に、地域おこしに挑戦してきた。基幹産業が低迷し、ふるさとの未来に希望が見出せないなかで、この閉塞感を何とかしたい。その想いが当時の若手後継者たちを奮い立たせ、周囲の人々の心にも火をつけたという。点と点が線になり、面につながってゆく。あるものを生かして磨きをかける。行政に依存するのではなく、できることは自分たちの手でやってみる。こうと決めたら信念を貫く「肥後もっこす」タイプが多いことも動きに弾みをつけたようだ。その気風を受け継ぐ若い世代に未来のバトンが託されようとしている。
南小国の人々は、美しい四季や自然のリズムに沿って丁寧に暮らし、ふるさとを慈しむ手間を惜しまない。とれたての野菜を分け合い、思いやりを持ってお互いに協力しあうコミュニティも健在する。貨幣経済では可視化できない奥の深い心のゆとりや豊かさがある。「なあんもなかとですけど」。あっけらかんといえる素朴さがいい。ここにいるだけで、ささやかな幸せを感じる。
2014年10月取材
執筆:上原美智子