伊根町
京都府与謝郡伊根町
京都府北部、丹後半島の先端に位置する人口約2000人の町、伊根町。この町を代表する景観といえば、江戸時代にその起源を持つ美しき「舟屋」の町並みだ。2005年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定。旅情あふれる風景を目当てに訪れる人は、例年なら国内外より数十万人に及ぶ。今は、いつもより少し静かな町。この機会に、伊根町の海に山に生きる人々の声に、じっくりと耳を傾けてみたい。
京都縦貫自動車道で、綾部を抜けてさらに北へ。天橋立の喧騒を横目に、丹後半島の奥へと海辺の道をゆく。徐々に道幅が狭くなり、伊根浦の舟屋の町並みが見えるころには、小さな車が行き交うのも難儀するほどだ。ここは早々に車を停めて、ゆっくりと歩くことにしよう。
両腕で海を抱くような、たおやかな湾のカーブ、その先に浮かぶ神の島・青島。この奇跡のような地形によって、伊根の海はどこまでも穏やかだ。いつしか限られた平地を拓いて漁師たちが水辺に暮らすようになり、江戸時代には現在の原型となるガレージ(納屋)としての舟屋が立ち並ぶようになっていった。
伊根町には昔から『同等一栄』という言葉があり、代々受け継がれてきている。諸説あるが一説では「みんなで等しく栄えよう」という意味があるらしい。日本三大漁場に数えられたブリ漁も、湾を賑わす神の恵みである鯨の漁も、住民たちは地区それぞれの役を代々分担し、一丸となって行ってきた。ともに働き、等しく分け合うことで育まれた伊根の風景は今、見直されるべき価値観を示していると言えるのかもしれない。
「日本で最も美しい村」連合への加盟は2008年。申請を決断した吉本町長は昨年7月、連合の会長に就任した。
「美しい村連合に何かを求めていたわけではありません。私が求めていたのは町民のみなさんの気持ちの変化。『ずっと〝美しい村〞だと言われ続ける村でいようね』。そういう意識をみんなでもっていきたいという思いでした」2013年に刊行された小紙で、吉本町長はそんな風に加盟への思いを語った。たしかに伊根で出会った人々は皆、自身が暮らす場所への「美しさ」への誇りを胸に暮らしていることが伝わってきた。「私は、『美しい村』に暮らしています」。その思いが、美しいこの町をさらに美しく輝かせていた。
2021年7月取材
執筆:玉木美企子 撮影:佐々木健太