中川村
長野県上伊那郡中川村
長野県南部、日本有数の雄大な山々に囲まれた人口5000人足らずの村。名だたる観光資源もない清閑な山あいの村に、豊かな感性を持つ人たちが次々と移り住んでいる。ここに一体何があるというのだろう。なぜこの村を選ぶのか。村人の多くは、首をかしげる。自然や風景だけでない、目には見えない吸引力の源とは― 中川村の美しさを探る、新たな旅のはじまり。
中央自動車道を降りて、見晴らしのよい国道をひた走る。駒ヶ根市、飯島町を抜けると、中川村に辿り着く。村を囲むようにそびえる中央アルプスと南アルプスは、わずかな残雪をたたえ、今しか出会えない表情で私たちを迎えてくれた。中川村という名の通り、村の中央には天竜川が屈曲蛇行しながら流れ、ゆるやかな河岸段丘の地形が広がっている。
中川村は気候が温暖で、どんな農作物でも育ちがいいという恵まれた土地。つつましくも豊かな暮らしが、村の人たちの人間性にも表れているのだろうか。ここで出会う人はみな、人あたりがよく、おおらかで、どこか謙虚さを持ち合わせている。
分けへだてのない村の気風は、村外の新しい人や考え方を柔軟に受け入れてきた。曽我逸郎村長もその一人。2005年の初当選を機に、家族で中川村に居を移し、政府に頼らない、自立した美しい村づくりを先頭を切って実践してきた。
村の人たちに中川村の特徴をたずねると、決まって「中途半端なところかな」というひかえめな答えが返ってくる。 “上伊那郡の南端という立地” に加え、 “山あいに位置しながらも、大型スーパーやカフェなどが点在する田舎過ぎないところ” というのがその理由だという。でも、誰一人としてそのことを憂いてはいない。逆に、居心地のよさを感じているのが口ぶりからわかる。なるほど、中途半端は “ちょうどいい” の裏返しなのかもしれない。ここでなら、誰もが自分を大きく見せることなく、ありのままで生きられる、そんな気がした。
2014年5月取材 執筆:中里篤美