まんのう町
(琴南・仲南・長炭)

香川県仲多度郡まんのう町(琴南・仲南・長炭)

こんぴらさんで知られる琴平町に隣接し、高松空港から町の中心部までバスで40分ほど。四国の中でも気軽に訪ねやすい“美しい村”は、香川県南西部、讃岐山脈のふもとに広がる水と緑の町だ。町内には、農業用ため池としては日本最大級の「満濃池」をはじめ、840ものため池が点在。香川特有の気候風土のもと、水の確保に苦労してきた先人たちの平穏への願いは、「町のためにできることをやる」という気概となって、今も受け継がれている。

高松空港からのバスの道中、窓の外に目をやると、おにぎり型の山々と大小のため池が、いくつも視界に飛び込んできた。昔話に出てきそうな親しみ深い田園風景に、ここが香川県であることを一気に実感させられる。
温暖な気候で晴天が多い香川県。それはつまり、雨が少ないということ。まんのう町も例外ではなく、古くから水不足に苦しんできた歴史がある。人々は田畑を潤すためにため池を築き、時には歌い踊って雨乞いをし、一丸となって自然の猛威に立ち向かってきた。そんな幾多の苦難を乗り越えてきた先人たちの知恵のおかげで、水と緑に恵まれた香川県にあって、まんのう町はその代表格と言えるだろう。弘法大師が修築した満濃池をはじめとするため池の数々に、町を横断するように流れる県下唯一の一級河川、土器川。さらに標高1000mを超える竜王山と大川山を擁し、県内随一を誇る豊かな自然環境。県内で3番目という大きな面積も相まって、人も自然もまとめて受け入れてくれる、どっしりとした存在感を放っている。
町の産業は農業が中心。そこから、この地で長く続いてきた営みを粛々と受け継ぐことが、人々の生活の一部になっていることがうかがえる。けれども、この町ではただ受け継ぐだけでは終わらない。町のためにできることを考え、力を尽くし、それぞれの取り組みを地道に継続してきた人たちの存在が際立っているのだ。
35年前、仲南地区帆山で、農家が休耕地の転作作物として作付けを始めた「ひまわり」は、栽培面積を徐々に増やし、今では、毎年町内全域で100万本が咲き誇る圧巻の風景を生み出した。琴南地区島ヶ峰では、20年以上にわたり、「そば打ち道場」を続けてきた地元リーダーの熱意が周りを動かし、集まった有志が荒廃地を開墾。多くのファンが訪れる、美しいそばの段々畑をつくり上げた。これらはいずれも、町の人が自ら始めたことが実を結び、新たな観光資源となったものだ。
そして、仲南地区佐文では、雨乞い踊りとして平安時代に起源を持つ「綾子踊」が今も伝承されている。2022年には、ユネスコ無形文化遺産に「風流踊」の一つとして登録され、新たな一歩を踏み出した。
「地域にどれだけ素材があっても、それを磨き上げる人がいなければ、光らせることはできない」。これは、ひまわりの種を活用した商品の開発や製造を手がける齋部正典さん(P7)が語った言葉だ。そして、「この町には、素材を磨くために行動できる人がいる」と。たしかに、まんのう町には、溢れんばかりの情熱で第二の人生を町のために捧げる人たちがいた。やるならとことんまで続けていく。そう貫かれた頑固なまでの気概の奥底には、この地を築いてきた先人たちへの深い敬意と感謝の念があった。

2024年10月取材
執筆:中里篤美 撮影:戸倉江里