飯舘村
鮎川ゆき

米粉パン職人

焼き続けること。 私なりの温度でお返しがしたい。

古里の秋田に避難する途中でとうとうガソリンが尽きた。
「あぁ、これからどうなっちゃうんだろう。小さなクルマ一台でとにかく村を出てきたけれどここまでかぁ」。
その場所は「新庄」。新庄市は山形県の北東にある人口4万人弱の市。 それまでの鮎川さんにとっては、両親の古里である秋田へ向かう通過点の場所に過ぎなかった。
身動きの取れなくなった鮎川さんは、クルマから一歩外へ踏み出した。まだまだ凍れる東北の3月。しかし新庄市の人々は温かく迎え入れてくれた。そして鮎川さんは地元のNPO団体に就職。レストランで米粉パンやケーキを焼きながら、いつしか周囲の温かさが体に浸透していく。気持ちがほぐれ、気分が落ち着いていった。
「偶然たどり着いただけの見ず知らずの私たちを受け入れて、親身に接してくれる。『新庄』はいい場所だなぁ」
震災直後の飯舘村から新庄に来て3年。この4月から自分のお店を持つための開店準備に忙しい。
「新庄のみなさんから贈られた大きな暖かさには及ばないけど、私にできることはひとつしかない。生地をこねてパンを焼くこと。焼き続けること。私なりの温度でお返しがしたい。」
パティシエとしての経験も持つ鮎川さんがつくる米粉パン。甘さの加減にも熱が入っている。

2014年2月取材
撮影:田村寛維