椎葉村
天野朋美
地域おこし協力隊(空き施設利活用)/ 合同会社 UIキャスト 代表
「3歳の我が子も、椎葉の子どもたちのように素直に育ってほしい」 笑顔を絶やすことなく、言葉を選びながらゆっくりと話す天野朋美さん。穏やかで柔和な印象だが、心の内には「この村で生きていく」という男勝りな決意が感じられた。
もらったやさしさに「私だからできること」でお返ししたい
新たな交流拠点施設の企画、テレワーカーの育成、関係人口の創出 ー 。地域おこし協力隊の天野さんが抱えるプロジェクトは数多い。真正面から村の課題に向き合い、動き続けるパワーの源はどこにあるのだろうか。システムエンジニアとして首都圏で働いた後、地元の広島にUターン。結婚、出産を経て、今後の生き方を模索していた時に目に留まったのが、地域おこし協力隊制度だった。椎葉村の募集記事を見て、「秘境」という言葉に興味が湧き、まずは村を訪れることにした。
「初めて椎葉に来た時、宿泊していた宿のおかみさんが『ゆっくりご飯食べなさい』と、8ヶ月の息子を抱っこして20分くらい帰って来なかったんです。都会では考えられない状況ですが、すごく安心している自分がいることに気が付いて。こんなおおらかな村で子育てしたいと強く思いました。それと、椎葉のおばあちゃんたちの笑顔と生き方を見て、こんなふうに歳を重ねたいと単純に思ったんです」
2017年4月に家族で移住し、村にある遊休施設の活用方法を考えるプロジェクトの担当として活動を開始。案件の一つが、旧老人ホームの跡地の利活用だった。平地が少ない椎葉村にとって広大な敷地は貴重な資源。だからこそ、「子どもからお年寄りまで多くの人が交流できる溜まり場のような場所にしたい」と提案した。村長はこの考えに賛同し、天野さんの提案が発端となって新たな交流拠点施設づくりが動き出した。
天野さんの椎葉への思い入れは人一倍強い。それを実感するのが、椎葉に関わる人を増やそうと独自に行ってきた関係人口をつくる取り組みだ。SNSを通じて椎葉村に興味を持つ村外の人たちとつながりを持ち、2018年は25人の若者が天野さんを頼りに村を訪れた。これをきっかけに、新たな移住者も出てきたという。
「村の人は、ここには何もない、若者は増えないとあきらめているんです。実際に若い人たちが椎葉に興味を持って訪れていることを見てもらい、村の人に希望を持ってほしい。気持ちで負けると何もできないから」
そんな思いは新たな行動となって現れた。「村に新しい仕事を生み出し、移住者を増やしたい」と、2019年7月に起業し、「合同会社UIキャスト」を設立したのだ。
「村の人たちには受け入れてもらっているだけでなく、いつも米や野菜などあらゆるものをもらうんです。でも私は返せるものを何も持っていないのが申し訳なくて。そのフラストレーションを仕事にぶつけて、私だからできることでお返ししたい気持ちだけです」
今では、消防団の女性部の一員としても活動し、「かてーりの精神が私の中にも芽生えてきた気がします。じっとしていられないんです」と笑う。村全体が家族のようなこの村で子育てできる喜びを感じながら、これからも椎葉のよさを全力で伝えていく。
2019年10月取材
執筆:中里篤美 撮影:田村寛維