松崎町
小泉邦夫

桜葉漬元三代目

松崎町の三大資源のひとつ、塩漬けにした桜葉。全国のシェア7割を誇る日本一の桜葉生産地だ。桜餅をはじめ、クッキーやそば、ワインのほか、桜葉で包んだハムやチーズなど海外に向けた加工品の開発も進んでいる。

全国シェア7割を誇る町の地場産業

3月3日のひな祭りで食したのが始まりとされる「桜餅」。餅の中のあんこの甘さと、皮をくるんだ桜葉の塩っけが口の中で絶妙なハーモニーを生む。桜葉漬けに使われるのは、オオシマザクラという品種で、このために特別に栽培されているものだ。松崎町では、昭和37年頃からオオシマザクラの栽培が始められ、町の重要な地場産業として発展してきた。
葉の収穫時期は、5月から8月いっぱいまで。収穫された葉は、人の手で選別され、同じ大きさごとに、50枚ずつの束にまとめられカヤの紐で縛ってゆく。これを、この地方の方言で「まるけ」と呼ぶが、こうした「まるけ」を専門に行う家が、松崎町だけで10軒ほどあるという。束ねられた桜葉は、醤油樽だったという高さ2m、間口2mほどの巨大な樽に漬け込む。葉を外側に向け一束ずつ同心円状になるように並べ、徳島の粗塩を使い、上下左右にまんべんなくいきわたるよう塩をまぶす。一つの樽で約4万束(200万枚)が漬け込まれ、最後に重さ1トンの重石を乗せる。5~6か月も漬け込めば、「クマリン」という桜葉特有の芳香成分が発酵して、漬け込んだ塩水が、木酢液のような独特の香りを放つ液状に変化する。
桜葉漬元三代目である小泉邦夫さんは「ここ松崎町の温暖な気候は、桜葉を栽培するのに向いています。全国どこでも栽培出来るわけではないですが、松埼と同じ緯度、経度であれば 桜葉栽培に向いている土地と言えます。雪がほとんど降らない温暖な気候もよいのでしょう」と説明する。ここで仕込まれた桜葉漬けは、誰もが知っている有名な和菓子屋さんにも卸されるなど、全国区で使われている。
「いかに綺麗なべっこう色と香りを出すかが大事」と小泉さん。桜葉の独特な風味を使って、ドイツやイギリスなど海外に向けた加工品にも力を入れ始めた。ソーセージの中に入れたり、チーズやハムをくるんだり、新しいジャンルの商品開発も行っている。
桜葉は9月から出荷を始め、北海道から九州まで全国に届けられる。過去にはわずか3ヵ月ほどのワンシーズンで、高級な国産車を1台買えるほど稼いだ農家もいたとか。
「朝の6時には収穫をはじめ、終わったら葉を紐でくくる『まるけ』作業に取りかかります。生もの相手の商売なので、シーズン中は休みもなく作業に明け暮れる毎日。松崎の桜葉は桜餅をはじめ、天ぷらなどの日本料理に使われたり、桜葉を粉末にしてクッキーに使ったり、桜葉そばや羊羹、ワインにも使われるなど、幅広く使われています。全国的にはニッチな産業ですが、松崎町を代表する地場産業ですね」。小泉さんは誇らしそうな笑顔をのぞかせた。

2016年7月取材
執筆:高橋秀子 撮影:田村寛維