曽爾村
前川郁子
カフェねころん
6年前、奈良市内から移住した前川さん。いつかカフェをやりたいと、独身の時からその夢をあたためてきた。お店がオープンしたのは今から2年前。こだわりのつまった、穏やかな時間が流れる空間で前川さんの思いを伺った。
ゆっくりと穏やかな時間が楽しめる曽爾の「隠れ家」
曽爾高原を見晴らす鎧岳のふもと。この地に古民家を借り、納屋部分をカフェにリノベーションして出来た「カフェねころん」。猫好きな郁子さんと、マカロン好きなご主人の好きなものをくっつけたのが店名の由来だ。曽爾村を選んだのは、ご主人の実家からほど近い場所であり、郁子さんに「村で最初のカフェをやりたい」という思いがあったから。築50年ほどの古民家は、郁子さんがインターネットで調べて見つけた。
「床を張り替えたり、壁を塗りなおす程度で、大掛かりな改装はしていません。梁や柱を見ても、もうこんな家は建てられないだろうなと思うほど、随所にいい素材が使われているのが分かります。ただ、大きな地震が来たら怖いかも」と笑う。
カフェをオープンしたのは、移住して3年が過ぎてから。その間は、カフェをやりたいという思いは胸に秘め、まず、地域の人々と関係を築くことを大切にしてきた。「突然、よそからぽっとやって来てお店をオープンさせるのではなく、地域の人に受け入れてもらってからはじめたいと思って」
お店のリノベーションが終わってから、オープンまでさらに1年の歳月を要した。「建物が完成したら今度は内装、お店でお出しするメニューなど、どうしたらいいか悩んでしまって。急いでオープンしても仕方ないので、じっくり時間をかけてひとつ一つをこなしていきました」
店内でいただけるのは金沢から取り寄せたコーヒーなどの飲み物に郁子さんお手製のマフィンをはじめとする焼き菓子。店内のいたるところに郁子さんの愛着ある本がずらりと並ぶ。そのセレクトはまるでブックカフェのよう。店内に流れる音楽も耳に心地よく、ゆっくりと穏やかな時間が楽しめる曽爾の「隠れ家」だ。
ランチは予約制で、お米や野菜はできる限り曽爾産のものを使用している。「玄米をお出しするので、マクロビ?と聞かれることもあるのですが、お肉もたっぷり使います。厳しい人には『玄米にはお肉は合わない』とお叱りを受けることもあるのですが」
営業は、金、土、日、祝日のみ。10人も入ればいっぱいになるカフェなので、基本、団体客はお受けしないスタンス。「カウンターはあるけれど、せっかくならゆったりと過ごしてもらいたいので、それを考えると7〜8人が精一杯。お店を開く際に思ったのが、『この村でパートで働く女性と同じくらいの収入が得られたらいいな』というものでした。それが実現できるのも釣り雑誌のライターとして働いてくれている旦那様のお陰。彼の健康には十分、注意した食事を心がけています」と茶目っ気たっぷりに話す。
本好きな郁子さんのもう一つの夢が、このカフェで古本屋を開くこと。
「自分が買い取った本が誰かの手に渡る。本が旅するって素敵なことですよね」
ゆっくりと、だが着実に曽爾という地に根を下ろしはじめている。
2016年10月取材
執筆:高橋秀子 撮影:田村寛維