小値賀町
西 浩三

小値賀町 町長(2011-2019)

今年6月、悲願だった「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録された小値賀町。今後、世界中からの観光客が訪れることが予測され、観光インフラ面の整備など、喫緊の課題も多い。2018年、小値賀は新たなスタートを切った。

世界遺産に登録され、新たなスタート地点に

今回、世界遺産に認定された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。長崎と熊本県にまたがる12の資産で構成されており、小値賀からは、潜伏キリシタン集落である「野崎島の集落跡」がその資産にあたる。
世界遺産登録への道のりは決して平坦ではなかった。2007年に、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」として、ユネスコの世界遺産暫定リストに登録されたが、その後、登録に必要な国の推薦が取り下げられる。理由は、世界遺産委員会の諮問機関「イコモス」より、「教会そのものよりも、潜伏キリシタンが隠れていた、という事実に焦点を当てることが重要」と指摘されたからだった。そこから、潜伏キリシタンの弾圧の歴史を実証する、という方向に内容を作り変え、晴れて、今年ようやく、登録が実現した。
「野崎島にはかろうじてお墓は残っていましたが、禁教下、密かに継承されてきた潜伏キリシタンについての証拠はほとんど残っておらず、実証するにも困難を極めました」
レンガ建築による旧野首教会が島の中央に立つ野崎島は、禁教の時代、移住した潜伏キリシタンが表向きは沖ノ神嶋神社の氏子を装うことで、自分たちの信仰を組織的に続けた島。今は住む人のいなくなったこの島に、その歴史的背景や建築、集落を見学しに、日々、全国から観光客が訪れる。
「世界遺産に登録されたこともあって、この先、世界中から交流人口は増えるでしょう。その時、団体客を受け入れる宿泊施設の課題など、観光面での整備が求められています」
雄大な自然と美しい海岸から、島のほとんどが西海国立公園に指定されている小値賀町。人々の生活や生業とともに発展してきた集落景観や、農業や漁業によって作り出された景観は小値賀特有であり、国の文化的景観にも選定されている。
町の主要産業は農業と漁業で、子牛を育てる畜産業も好調だ。近年では、島で獲れる魚のブランド化に力を入れている。小値賀が誇るイサキのブランド魚「値賀咲」(ちかさき)は居酒屋に直接、卸すなど独自の販路も拡大している。「東京の日本橋にある『ご当地酒場長崎県五島列島 小値賀町』では、東京のど真ん中で小値賀の新鮮な魚介が食べられるとあって人気のお店です」
西町長は小値賀生まれ。町役場で定年まで勤め上げた後、2011年より現職。1950年代、最盛期1万1000人ほどあった人口は、今は2500人を切るほどに減少したが、Uターンなどで若者が島に戻ってくる動きもある。
「進学で外に出た人が島に戻ってくる際は学費を免除するなど、安心して島に戻ってこられる制度も整えました。今後もますますUIターンに力を入れていきます」
小値賀町の子どもたちは本当にフレンドリーだ。見ず知らずの私たちにも、笑顔で「こんにちは!」と何度も声をかけてくれた。

2018年5月取材
執筆:高橋秀子 撮影:田村寛維