中之条町
伊参/六合
ねどふみの里
保存会

ねどふみの里保存会

六合に伝わる「ねどふみ」という技の手仕事文化。ここから生まれるのがスゲ細工の代名詞「こんこんぞうり」。六合根広地区の女性たちの手で編まれるぞうりは、作り手に似て表情豊かで愛嬌たっぷり。

「野の草を履く」ように

標高600〜2300mに位置する六合。平地が少ない山間部ゆえ、水田に不向きなこの土地では、稲ワラの代わりにスゲを活用して様々な生活用品を生み出してきた。繊維が硬いこのスゲを尻焼温泉のお湯に浸し、足で踏んだり木槌で叩くなどして柔らかくすることを、「ねどふみ」と呼ぶ。ねどふみの「ねど」とは、草などを温泉に浸ける 「寝かせる処」からきていると言われる。こうして出来上がったスゲ材は、光沢があって丈夫。縄やムシロとなり重宝されてきた。
このスゲを芯縄にして作られるのが「こんこんぞうり」。甲の部分が丸く盛り上がったスリッパのような形で、雪深い地域特有の冬場の作業として母から子へ受け継がれてきた。布を使ったカラフルなデザインが特徴で、お土産品として道の駅や旅館などで販売されている。 この「ねどふみ」の技の継承と保存を目的に作られたのが、地元の70歳以上の女性たちを中心に活動する「ねどふみの里保存会」で、民家を改修した建物の一角にある「ねどふみの里」では、こんこんぞうり作りの実演や体験などを行っている。
この日、ぞうり作りの工程を見せてもらおうと、作業場にお邪魔させてもらうと、小上がりになった畳の上で4人の女性たちが足を投げ出し、それぞれのペースでぞうりを編んでいた。足の指を器用に使ってワラ数本を挟み、その上に色とりどりの布を巻きつけていく。
「その時、手に入る生地次第でぞうりは変わってくるし、作る人によっても形が違う。配色が上手な人はうまく作るよ」
そう話すのは、しっかり者の中村とらさん。確かに格人格様に手に取って編まれていく色の組み合わせが全く違う。
彼女たちが作業に励むその背後には、カラフルな布がタスキのように何十本もかかっている。聞くと、布団屋から仕入れた布で、古い布もあれば新しい布もあるという。布団から切り出したこの布を、ワラを補強するために巻き付けるのだが、この布の柄が全体の印象を決める。
一説には、編んだぞうりを木づちでコンコン叩いて形を整えることからその名がついたとか、雪やあられが降る様子からつけられた、とも言われるこんこんぞうり。黒岩富士子さんは子ども時代を振り返って言う。
「昔は、親がワラぞうりを作ってくれて、それを履いていた。今みたいに布がなかったからすぐワラが切れてダメになったね。布を巻くようになってぞうりの強度も上がった」
布を巻くことは長く使うための生活の知恵であったのだ。単なる見栄えの良さではなく必要な機能として。そして富士子さんは笑いながら話を続ける。
「昔は一日に最高5足作ったこともあったけれど、今は2足くらいが限界。あまり本気で作ったら目が回ってしまうから」
こんこんぞうりは、芯縄となるスゲ縄に、布を巻いたワラを編み込みながら手作業で作られる。この辺りでは稲作が不向きで、ワラは採れないため、沢渡などよその地域からもらってくる。ぞうり作りに使うには、一定の長さが必要なため、機械でなく、手で刈られる。ワラの確保だけでも大変な手間がかかっているそうだ。
山口うた子さんによると、 「毎年、知り合いに頼んで仕入れています。余るほどもらっても作れないし、今年作る分は十分にありますよ」
作業場には、ワラの束がいたるところに置いてあり、石の上で叩いて柔らかくして使う。ワラの保湿性で、冬は足元を暖かく守り、布のおかげで、履き心地も良いのが特徴。時折、「ワラ、こっちにあるよ」といった会話が聞こえてくるが、基本、作業中は、おしゃべりはせず、黙々と手元に集中している。
とらさんの姉である中村千代子さんの膝の上には、ネコのはなちゃんが気持ち良さそうにうたたねしている。
「作業中、あまり話すと手順を間違えるし、耳が遠くて聞こえないから、妹の言うことがわからねぇ。しゃべらない方がいい」と笑う千代子さん。作業中は、もっぱらラジオがお供のよう。
「10時と3時にはお茶を飲んで休憩も取りながら、気楽にやってるね」
過去、テレビでこんこんぞうりが紹介された時は、放映中から役場の電話が鳴り続け、注文が殺到。5千足もの注文が来た。しかし一つひとつ手作りのため生産は追い付かず、最終的には5年待ちにもなったとのことだ。
体験で作り方を習いたいと言う人は遠方からも訪れるが、「後継者がいないことが大きな悩み」と、とらさんは言う。
「昔はもっと作り手がいたけれど、みんなやめてしまった。ちょっと作業を休むと作り方も忘れてしまう。あとに続いてくれる人がいたらいいのだけど、若い人でやりたい人はなかなかいないね」
確かに編み方はかなり複雑に見える。なかなか手強そうだ。
休憩時間になると、ストーブの上に乗せたやかんのお湯でコーヒーを入れて、しばしのコーヒーブレイク。それが一息つくと、また作業に取りかかる。ぞうりの形を整えるこんこん、こんこんと木槌を叩く音が心地よい。一度、失ったら取り戻せないここだけの音だ。

2020年1月取材
執筆:高橋秀子 撮影:田村寛維