多良間村

沖縄県宮古郡多良間村

PHOTO:©田村寛維

東京から飛行機を乗り継いで、約3時間30分。多くのダイバーから「生物の宝庫」と評される美しい海を擁する多良間村は、多良間島と水納島の2島からなる。日本有数の観光県にあっていまだ手つかずの自然が残る、沖縄唯一の「日本で最も美しい村」。はじめて訪れても懐かしさを感じる街並みに、底知れぬ力強さを感じる自然、そして、心穏やかな人々が綿々と守り継いできた独自の文化や風習が、この村には豊かに息づいている。

宮古空港から多良間へ、小さなプロペラ機が轟音を上げ飛び立つ。ここから島までの飛行時間はわずか20分、しかしせっかくならと窓側に座り、少しくすんだアクリル窓に額を寄せて、眼下に移ろう景色を見守った。
機体が高度を上げながら西へ進むほどに、海がぐんぐんと透明度を増していくのが空の上からもわかる。深い緑と青とが入り混じりながら艶やかにうごめく、その水面はまるで、熱せられたガラスのようにとろりとした質感をもつ流動体。あるいは、意思を持った生き物の背中のようだ。予想を遥かに超えた「美しさ」は圧倒的で、ここがダイバーたちの憧れを集める海であることは疑いようもない。
しかし2010年、沖縄県初となる「日本で最も美しい村」連合に加盟した際、登録された地域資源(未来に残したい多良間村の特徴)はこの海ではなく、多良間伝統の豊年祭「八月踊り」であり、自然を生かし生活に根ざした「風水村落」だった。その事実には、登録に奔走した人々の「目に見える自然や景観の美しさよりも、それを守り継ぐ多良間人の心の美しさを大切にしたい」との考えが現れている。
面積19.75㎢という小さな島のなかでも、人が暮らす集落は約1割。500年以上前に街並みの基礎がかたちづくられたと言われる「元祖コンパクトシティ」多良間島と、面積2.15㎢、わずか3名が暮らす水納島の2島からなる多良間村。ここでは人口約1000人の島民たちが互いを思いやり、助け合う「ふしゃぬふ」の心を胸に、限りある資源を分け合いながら暮らしている。数ある宮古群島のなかでも農耕文化が色濃く、言葉も気質も穏やか。「制限速度が時速50kmの場所なら、40km以下でゆっくりと走るのが多良間人ですよ」とは地域おこし協力隊OGの登彰子さんの言だが、それもまた、互いの顔だけでなく暮らしまでを知り、日々助け合う「ふしゃぬふ」を旨として生きるからこそのふるまいなのだろう。
観光県としての人気が加熱し、乱開発やオーバーツーリズムが問題となる地域も増える沖縄にあって、この村では小さな島で命をつなぐための有限性が見えているからこそ「多良間らしい暮らし」の軸が大きくぶれることはない。先人の叡智を敬い、限りある資源を守りながら今を重ねることの美しさを知る多良間人たちの日々のなかに、私たちが進むべき未来へのヒントが見つけられそうだ。
※ふしゃぬふ…多良間の言葉で助け合い支え合う思いやりのある人間関係のこと

2025年4月取材
執筆:玉木美企子 撮影:田村寛維