田子町
青森県三戸郡田子町
街灯もポストにもにんにくモチーフ、公用車のナンバーまで229。どこを見回しても、まごうことなき「にんにくの町」だ。有名な観光地はなくても、鉄道駅だってなくても、観光客に国際交流にと、ここはいつも外からの風が吹いていてにぎやかだ。注目すべきは、このにぎわいのなかに必ず、持ち前のホスピタリティで旅人を迎え入れている町民の姿があること。にんにく畑を目指していけば、きっとあなたにも、忘れ得ぬ田子町民との出会いが待っている。
JR二戸駅から車で30分ほど。国道104号線を西へ進むと、田子町に入ったことはすぐにわかる。畑にも、看板にも、ショップにももちろん、にんにく、またにんにく。まるで町全体がテーマパークのようだ。「こんなにも、にんにく推し?」。面食らって、圧倒されて、最後にはなんだか笑ってしまう。あっぱれの一点突破型ブランディングを目の当たりにするだけでも、この町を訪れる理由はじゅうぶんだろう。
青森県の最南端に位置し、岩手県と秋田県に隣接する県境の町・田子町。人口は5000人弱の小さな町ながら、「たっこにんにくR」の名は全国にとどろいている。栽培の歴史は、じつに60年以上。その発端は、地場産業である畜産の糞尿を堆肥として活用しながら、冬の間も出稼ぎに頼ることなく生計を立てる、循環型の換金作物を探すなかでの選択だった。にんにくの可能性にかけ、生産者たちは他に先駆けて栽培に着手し、県下での栽培振興のけん引役を長く担ってきた。
森林率約80%と、もともと耕地面積には限りがある土地柄ゆえ、すでに生産量ナンバーワンの座は他市へ譲って久しいが、いまも田子町のにんにくの品質の高さと、すぐれた加工品開発への評価は高い。これに加え近年は、世界のにんにく産地との姉妹都市交流や、多様な体験イベントを仕掛ける文化観光交流の拠点「みろく館」の開設など、「交流する町」としての仕組みづくりにも力を注いでいる。
「日本で最も美しい村」連合への加盟は2015年。ここに至る詳細については12ページの首長インタビューに預けたいが、「交流する町」の方向性は「日本で最も美しい村」連合への加盟と、故・松尾雅彦氏(前副会長)との出会いが大きなきっかけだったと山本町長は語った。今回は、「若手料理人交流会」と題し、現副会長である二宮かおる氏の呼びかけのもと、加盟町村地域各地の料理人と行政職員、当連合の資格審査委員である明治大学藤本穫彦准教授のゼミ生たちも田子町に集い、町をめぐり、町民たちと親交を深めた。
「暮らす人が輝き、人に会いにまた来たくなるような町づくりを推し進めてきた」との町長の言葉を裏付けるように、町民のみなさんと話すほどにそれぞれの個性と才能、そして町への深い愛が伝わってきて、心動かされる。彼らと過ごす時間のなかで、にんにくをきっかけにしながら「だけじゃない」文化や歴史、自然といった町の魅力がじんわりと身の内に染み渡ってくるようだ。各方面に配慮した総花的な地域ブランディングが多いなか、この町では「にんにく推し」という選択と集中の戦略が受け入れられた理由さえなんだか納得できてしまう。
夏にはにんにく色の風が吹く、やさしくて熱い町・田子町。敷居は低いがどこまでも奥深いこの町の魅力を、今回は、ともに旅した若者たちの力も借りながらたっぷりとお伝えしたい。
2024年7月取材
執筆:玉木美企子 撮影:疋田千里