智頭町
鳥取県八頭郡智頭町
鳥取県の東南、周囲を中国山地に囲まれた山あいの美しい村は参勤交代の宿場町として、杉の町として、そして2010年代からは “疎開” のまちとしても注目を集め続けてきた。そんな智頭の現在地をたしかめるべく、幾つものトンネルを抜けて町を訪ねると、そこには美しき山々と歴史の面影を残す街並み、そして生き生きとこの町を輝かせる人々の笑顔があった。
たとえ訪ねたことがなくても、ゆかりがなくても。「鳥取県智頭町」の名をどこかで聞いたことがある、という人は多いのではないだろうか。遠く江戸時代は参勤交代に向かう鳥取藩最初の止宿であり、「慶長杉」に代表される長き林業の名産地。そして近年は、後にも登場する「タルマーリー」の新天地であり、林業の担い手を育成する復業協同組合など新しい実践を生み育てる場でもあり……と、この町の名はあらゆる場面で聞こえてくる。
それでも実際に訪ねてみれば、町は拍子抜けするほど穏やかな顔で私たちを迎えてくれる。毛細血管のように張り巡らされた細い路地が今も息づく街並み、山すそを走る因美線(地域の人はいまでも「汽車」と呼ぶ)、包み込まれるような杉の山林。そうした、古くから町を形づくり、今も変わらずそこにある風景のうえに、古民家を改装したシェアカフェや藍染のギャラリー、お年寄りも足しげく通うゲストハウスのレストランなど、新たな文化がそっと寄り添い、やさしく色を添えている。その類い稀なバランスこそ、この町の美しさなのだと気付かされる。
「日本で最も美しい村」連合への加盟は2010年。町に自治の精神を醸成し、町民参加のまちづくりを浸透させた前町長・寺谷誠一郎町政の時代からの参画であり、小紙では03号(2013年刊行)以来2度目の特集号となった。当時、寺谷町長は「必要なものを自分たちで作ってこそホンモノの町づくり」と自治の重要性を語ったが、金兒英夫現町長のなかにも、その想いは変わらずに受け継がれていた。
「日本では毎年、56万人の人口が減少している。ちょうど、鳥取県一つぶんが毎年なくなっているような時代です」と金兒町長が語った現実はたしかに重い。しかし、今回の滞在では、衰退よりもむしろ豊かに深まっていくような未来への希望を受け取ることができたように思う。命の力あふれる作物が、腐敗せず発酵していくように、「美しい村」という存在には、そこに思いを寄せる人の熱によってますます複雑に入り組み、味わいを増し、人々をさらに魅了し続ける力が宿っているのだ。
2024年1月取材
執筆:玉木美企子 撮影:佐々木健太