小坂町
秋田県鹿角郡小坂町
盛岡から東北縦貫自動車道で1時間と少し。小坂インターチェンジを降りればもう、町の中心地はすぐそこ。そう、ここは「奥山の秘境」などではなく、気軽に立ち寄ることのできる “美しい村”。日本一の鉱山として栄え、今は製錬と農業、観光の町としてにぎわう、人口約4800人の町。
アカシアの若葉が揺れる明治百年通りに佇めば、古きを守り、新しきを受け入れるこの町を表すような、やわらかな風が出迎えてくれた。
秋田、青森、岩手からなる北東北3県のほぼ中心に位置する、秋田県小坂町。1861年、この地に小坂鉱山が発見されて以来、ここは長く鉱山の町として繁栄した。
金、銀の採掘に始まり、明治期には全国に先駆けていち早く近代の製錬技術を導入。日本の繁栄を支えてきたその技は進化を続けながら現代にも受け継がれ、2007年からは世界各国から集まる電子機器からレアメタルを抽出する「リサイクル製錬」の取り組みでも注目を集めている。
そして町内へ目を向けてみれば、鉱山繁栄の名残りを感じさせる建造物をひとところに集めた「明治百年通り」に、主要地方道大館十和田線沿いの名瀑「七滝」、言わずと知れた絶景の名所「十和田湖」など、誇るべき地域資源は豊富だ。
それでも2009年当時、細越満町長は「日本で最も美しい村」連合への参加を逡巡したという。「かつて、採掘や製錬によって環境汚染にさらされた町が、『美しい村』を名乗って良いのだろうか」と。
たしかに、栄華の影で進行した溶鉱炉からの煙害により、町内の山が壊滅的なほどに荒廃した時代がここにはあった。しかし、その後企業は環境負荷に配慮した製錬事業への転換を図り、同時に植樹活動を粘り強く実施、町は現在の緑あふれる姿を取り戻した。そして付け加えれば、「明
治百年通り」に居並ぶ建造物の数々は、鉱山とともに生きたこの町の歴史を誇りとし、後世に伝えようと、町民主体の保全活動によって守られてきたものなのだ。
ときに負に向き合い、それでも実直に、未来を築く。そんなたゆまざる歩みの末にあるこの美しき町に今、多様な移住者たちが魅せられ、新たな暮らしを紡いでいる。そんな変化もまた、この町はあたたかく受け止めていることを、取材のさまざまな場面で感じることができた。「小坂のいちばんの魅力は人。暮らす人の心があたたかい町なんです」
この町の人から受けた優しさを想いながら、口々にそう語られる様子にはうらやましくさえなるが、大丈夫。この町を訪ねれば誰もがどこかで、彼らと同様の体験にきっと出合うことができるはずだから。
2022年4月取材
執筆:玉木美企子 撮影:田村寛維