早川町
山梨県南巨摩郡早川町
中部横断自動車道のインターチェンジを降り、山懐へと飛び込むように西へ車を走らせる。富士山の眺望は遠ざかり、気づけば幾度ものカーブと急峻な坂が続く細道に分け入っている。
道中はまるで、町にたどり着くための儀式のように、少しの不安とたくさんの期待を旅人の胸に宿す。
それゆえだろうか、長い緑のトンネルを抜けた先にあるこの町の集落や人との出会いは、格別に印象深く心に残る。
山梨県の南西部に位置する早川町。1956年、富士川水系の一級河川・早川の周囲に点在する六つの村が合併して誕生したこの町は、いわゆる「平成の大合併」を町民全体の意思によって見送り、日本で最も小さな町となった。現在の人口は約994人。森林や温泉等豊かな自然環境を生かしながら、観光業や林業などそれぞれの暮らしを営んでいる。
日本で最も美しい村連合への加盟は2009年。登録されている地域資源は、信仰者の宿場町として知られる赤沢宿、“秘境の里”奈良田集落の焼畑農業文化、多くの墨客に愛されてきた雨畑硯……と、小さな町とは思えないほど多様だ。それもそのはず、現在11期目を務める辻一幸町長が就任当初よりめざしてきたのは、「旧6か村の足元にある資源を掘り起こし、にぎわいの場をつくるまちづくり」。
「人々の町への愛着は、一極集中の利便性ではなく、地域での暮らしの満足度から」と、旧6か村各地に土地の特徴を生かした拠点を設けたほか、町のシンクタンク兼中間支援組織「日本上流文化圏研究所(上流研)」を設立したのだった。※現在はNPO法人化
そして上流研では、町民たちと行った聞き取り調査を経て、町の特徴を土地に伝わるこんな言葉から導き出した。
・厳しく豊かな、入り組んだ自然環境『早川入り』
・なんでも自足する万能の知恵と技術『まんのうがん』
・結いを受けて返す相互扶助の精神『ゆうげぇし』
何事も自らの手でまかなう知恵や技術を養いながら、周囲と互いに助け合う気持ちを忘れない。これは自然資源の有限性を突きつけられ、気候危機に直面する現代の私たちこそ身につけるべきありようではないだろうか。
自然との距離が近い土地だけに、土砂災害に見舞われることもある。高齢化率も県内一の48.09%となり、集落維持などの課題は深刻だ。また、現在はリニア中央新幹線と中部横断自動車道の建設工事のただ中でもあり、「過渡期」を感じさせる光景も各所で見られる。それでも各集落では、自らが暮らす地域の風土を愛し、「ここでの暮らしが幸せ」と話す多くの人に出会えた。自治体とは、人口とは、豊かさとは……? この小さな町で、思いがけずたくさんの大きな問いを受け取ることとなった。
2021年1月取材
執筆:玉木美企子 撮影:佐々木健太