小川村

長野県上水内郡小川村

PHOTO:©田村寛維

本州の重心、「へそ」とも呼ばれる信州小川村。長野県の北部、長野市と白馬市の中間に位置する人口2600人ほどの小川村は、「おやきの里」としても知られている。小麦粉の皮にナスや野沢菜などを包んで焼いた信州の郷土食おやきは、村の活性化、女性の就労と起業にもおおいに貢献する「立役者」でもある。

晴れた日には、村内のいたる場所から雄大な北アルプス連峰を望むことができ、ふもとには日本の古き良き里山風景が広がる。絵本の中から飛び出したかのような牧歌的な景観は、訪れた人をどこか懐かしく、ほっと落ち着く「心のふるさと」へと誘ってくれる。「日本で最も美しい村」連合に加盟したのは2009年。「にほんの里百選」にも選ばれた、北アルプスを一望できる里山風景とおやきの食文化などが地域資源として登録されている。
村の面積の7割が山林で、標高500~1000mという中山間地域に人々が暮らしを営んできた小川村。米作りに適した平地がないという立地条件から、わずかな斜面を切り開いてそこで麦畑を作ったのが、おやき文化の発祥のきっかけだ。かつて、山の峰まですべて畑だったという1950年代には、人々は背負子(しょいこ)をかついで、山の向こうの畑まで歩いていき、大豆や麦作りに励んだ。初夏になり、黄金色に輝く麦の穂が風に揺れる姿は、今でも村の美しい情景のひとつだ。
おやきを通じた村おこし事業の先駆け的な存在であるのが、「小川の庄」。信州の郷土食おやきを「ふるさとの味」として商品化しようと創業したのが今から30年前のこと。急激な人口減と高齢化、過疎化などの地域課題に直面するなか、「ふるさと再生」「新しい村づくり」を掲げてスタートした。当初は「とても人様にお出しするご馳走ではない」と反対の声もあがったが、「地域の農産物に付加価値をつけ、女性や高齢者が働ける場作りを」というコンセプトのもと、生産から加工、国内外への販売まで精力的に展開。現在、おやきは、村をはじめ、日本を代表するソウルフードにまで成長した。
平成の大合併でも自立することを選んだ小川村。「自分たちの村は自分たちで良くしていこう」という独立精神が昔からあり、コンパクトな村ゆえの意思決定のスピード感、風通しの良さも特徴だ。移住パンフレットをめくると、暮らしと生業を楽しむ女性たちのバイタリティと笑顔がページにあふれ、「この村に一度、行ってみたい」と感じさせる。
この村を選んで引っ越してきた移住組、昔からこの土地に生まれ育ったネイティブ組。新旧の村民たちが入り混じって、さらに良い風と動きが生まれる。通りすがりに「りんご、持っていって」と声をかけてくれる人のあたたかさ。見ず知らずの人間にも優しい気質が小川村の魅力である。

2018年10月取材
執筆:髙橋秀子 撮影:田村寛維