塚原

大分県由布市湯布院町塚原

温泉街で知られる大分県由布市湯布院町。別府市との境にある由布岳の北側に広がる塚原地区は、標高600mの高原地帯に位置する。なだらかな丘陵と緑豊かな牧草地が広がるその景観は、訪れる者を魅了してやまない。塚原高原は鬼が作ったとされる『九十九塚伝説』や『為朝伝説』など古来より様々な言い伝えのある土地で、4世紀にはすでに集落があったことが、鎮守・霧島神社の石碑に刻まれている。

湯布院町塚原地区。大分県における畜産発祥のこの地は、標高1583mの由布岳を望み、初夏には、青々とした草原の上を爽やかな風が吹き抜ける牧歌的な風景が広がる。湯布院から車で10分、別府市までも30分と便利な場所にありながら、手付かずの雄大な大自然が残る塚原地区は、周囲の集落から孤立した立地ゆえ、昔から行政頼みでない住民主体による地域づくりが行われてきた。
もともと農村地だった塚原が観光地として注目されてきたのは、ここ20年ほど。この景観に惚れ込んで移り住んできた人々が中心となって観光協会が設立され、「塚原高原」という名前が知られるようになった。三大薬湯の一つ、塚原温泉は古くから湯治場として栄えてきた全国的にも有名な秘湯。活火山・伽藍岳(がらんだけ)の中腹より自噴する源泉を利用した100%かけ流しの湯。その泉質は強い酸性で、金属の腐食がとても早い。20分ほど湯に浸かったが、シルバーの指輪がかなり黒く変色していて驚いた。
塚原は141世帯、人口340人ほどの小さな集落だが、大きく分けて3つの暮らしが混在する。先祖代々、この地に生まれ農業を営んできた人々の暮らし。終戦後の開拓で酪農を始めた人々の暮らし。そして、1980年代以降、この地に魅了されて移り住んできた、観光を営む人々の暮らし。それぞれ、歴史も背景も異なるが、住民がこの大自然の恩恵を享受できるのは、昔から脈々とこの土地を守ってきた先人たちの努力の賜物といえる。
遮るもののない広大な土地。ここに目を付けた事業者が新たな事業を興そうとする度に、地区内では賛成、反対に意見が分かれ、地道な対話による折り合いがつけられてきた。政治的な意見は違えども、その根っこにあるのは、「塚原の景観を守り、持続可能な発展を目指す」という共通の理念だ。
「日本で最も美しい村」連合に塚原地区として加盟したのが2011年。多くの市町村が行政単位で加盟しているのに対し、塚原は数少ない「地域」としての登録で、その人口は「日本で最も美しい村」としては最もミニマムな集合体だ。登録されている地域資源は、「雄大な農村景観」と、450年前から続く「甘酒祭り」。その年に出来た新米で甘酒を造り、五穀豊穣を祈る大切な行事だ。
秋になれば高原一帯にコスモスが咲き乱れ、冬になれば静寂な白銀の世界に包まれる。季節は巡っても、人々の心にはいつも霊峰由布岳がそっと寄り添っている。

2018年7月取材
執筆:髙橋秀子 撮影:田村寛維