飯舘村
市澤美由紀

自家焙煎珈琲 椏久里 店主

煎り、コーヒーとともに暮らす。

村から約40㎞、福島市で営業を再開した自家焙煎珈琲店「椏久里(あぐり)」。避難先への移転ではなく、新規店舗「福島店」という位置づけ。本拠地はあくまで飯舘村との思いからである。
「村があっての、山やのどかな風景があってのお店だった。その場所にあるからこその価値。なによりも大事に育ててきた地域社会が丸ごと失われてしまいました」
これまで果たしてきた役割は、美味しいコーヒーの提供だけではない。村に「産直」などなかった時代に、農産物を作るだけではなく「消費者にどう届けるか」が大切だと考え、直売所を始めた。次第に、村には「峠の茶屋」が必要だと感じるようになった。
「会話を紡げる場所。村へやって来る人、村を横切る人、人々がちょっと休める場所があったらいい」
両親が作った農産物を直売しながら、平成4年に椏久里を開店。以来「よいコーヒー」を追求し、サービスも徹底してきた。
「私はどこへ行ってもコーヒーをいれる。おいしいパンを焼く。けれど、村の人間関係あっての椏久里。飯舘の美しい山村のなかでの椏久里。それが本当の姿なんです」
古民家を移築した店舗の「椏久里福島店」。「凛」とした空気の中にコーヒーの香りが引き立つ。ここは格別素敵な空間だが、それ故に飯舘村の椏久里への思いが強く募る。

2014年2月取材
撮影:田村寛維