高森町
奥阿蘇くさかべ

農事組合法人 奥阿蘇くさかべ

高齢化などにより米づくりが出来なくなった農地。耕作放棄地になり、荒れていく土地を守ろうと、草部の農家7人が力を合わせ農業法人を立ち上げた。中山間地という特殊な土地ゆえ、難しいとされてきたなかでの法人設立。手探りで始まった組織運営だが、立ち上げから1年。確かな手ごたえを感じている。

草部の農地を守るために立ち上がった7人衆

高森町の草部地区で、農事組合法人「奥阿蘇くさかべ」が立ち上がったのが今から1年前。メンバーは7人。それぞれが個々で農業に携わっていたが、広大な農地を管理してゆくには、農機具などコスト面でも負担が大きいことから、県から組合法人を立ち上げることを推進されたのがきっかけだ。
代表の佐楢見(さなみ)眞一さんは「高齢化が進み、農業者の平均年齢は74~75歳。20代にいたっては5~6人しかおらず、このままでは農地を守っていけない、との思いから、法人を作り組織として農地を守っていくことになりました」と説明する。
住職と農業、二足のわらじをはく佐楢見さんを除き、メンバーは専業農家。それぞれ年も近いことから、お互いに気がねなく、好きなことを言い合える仲。ここ、草部地区は夏でも平均気温25℃の寒冷地で、寒暖差の激しさは、美味しいお米作りの大事な気候条件でもある。ここで収穫されるお米は、透明な姿でつやがあり、口の中に広がる甘みが特徴。
奥阿蘇くさかべ米としてブランド化しているのが「百年の恵」。このネーミングにも草部ならではのエピソードがある。かつてこの地には水田がなく、トウモロコシやあわ、ひえなどしか作れず、年間収入でわずか5千円にしかならない時代があった。「この地で稲作をしたい。なんとしてでも水を引こう」。村人たちは断固たる意志で結束し、血のにじむような努力で水路を引いたのが100年前。おかげで、ここ草部で米作りが出来るようになった。
いつの日も、その先人たちの知恵に感謝して、美味しいお米作りを未来へつなぐ、という思いが込められているのだ。
ちなみに水路は、上流の湧水を直接引いているので、水田には一切の生活用水が入らない。標高630mの気候では、害虫の被害も少ない。それが、消毒剤や農薬を限りなく使わない米作りを可能にしている。「普通に作っても美味しいのが草部のお米。それにプラスして、安心、安全にも配慮したお米作りをしています。自分たちも美味しいものを食べたいですし、それを消費者の方にも提供したい」と理事の1人、佐藤民雄さんは語る。
県内では、中山間地での農業法人の立ち上げは珍しく、難しいとされてきた。平坦地に比べて、小さな耕地が点在するため管理が大変で、耕作面積の大規模化が難しく、農機具などが補助の対象にならないこともあるためだ。「立ち上げ当初は組織としてやっていけるのか、という不安ばかりだった。それが1年経ち、結果を見て、これからも続けていけるという自信がつきました」と佐藤さん。
農事組合が軌道に乗れば、この先Uターンなどで集落に戻ってきた若者の雇用の受け皿にもなる。働き方の選択肢に新規就農という道があることを示してくれるモデルになりそうだ。
100年前、血のにじむ努力をして水路を通した先人たち。100年経ったいま、その魂を受け継いだ7人衆が、草部の農業に新たな風穴をあけようとしている。

2017年1月取材
執筆:高橋秀子 撮影:田村寛維