吉野町
北岡 篤
吉野町長(2016-2020)
実家は吉野町で代々酒蔵を営む北岡本店。4人きょうだいの次男として生まれた。町長を務めた父親と同じく自身も首長の道へ。「木のまち吉野」として新しい切り口から吉野材のPRに尽力する。
かつて「交易の場」だった吉野に再び「交流の場」を
吉野町の経済を支えてきた吉野林業。その歴史は古く、500年前の室町時代、豊臣秀吉が吉野の山に自生する天然木を伐採して、城の建築に使ったのがきっかけ。その後、植林が行われ、この町の産業として発展した。
「さかのぼれば修験道の聖地であり、お寺や神社のもと門前町として栄えてきました。西行法師が吉野の桜にちなんだ多くの歌を詠んだことから桜が有名ですが、町の産業を象徴するのは吉野杉、吉野桧に代表される吉野材です」
2016年、町制60周年を迎えたこの年、吉野町は「木のまち、吉野だからこそできる木育を目指して」ウッドスタート宣言をした。
吉野材を使った先鋭的な試みとしてお台場(東京) で開催されたHOUSEVISIONがある。
「住宅の未来を思索、提案するこの展示会で、世界で活躍する若手建築家、長谷川豪さんと民泊サイトAirbnb(エアービーアンドビー)、それに吉野町が協力して『吉野杉の家』を完成させ、世界中からたくさんの方が見学に訪れてくれました」
吉野材を使い、吉野の職人の手で作られたこの家は、現在、吉野川のほとりに移築され、吉野杉の魅力を体験できる宿泊施設として一般向けに開放されている。
吉野の木は、「まっすぐで、年輪が細かく、節がない」のが特徴。「建築や柱材など、特別な材として使われていますが、古くは、酒樽や醤油の仕込み桶など生活に根付いたところでも使われてきました。今後は、家具などにも活用していくことを考えています」
町長就任から11年、かつて最盛期で2万人いた住民は現在7400人ほど。人口減の壁にも直面している。「子育て支援など様々な手を打ってきましたが、それでも、外部から人が移住してくるには、まだ足りないのだと感じています」。ふるさと教育の一環として、吉野の子どもたちに満開の桜を見せる授業を行っているのは、地元住民であっても、シーズン中は観光客の混雑を避けるため、意外に桜を見たことがない人が多いからだ。
3万本もの桜は地域住民が下草刈りを行うなど、美しい景観づくりへのたゆまぬ努力も続けられている。「それまで委託していたゴミの収集を直営に替えたのも、繁忙期以外のあき時間に、少しでも地域清掃など町の美化に注力してもらうため。まずは、美しい村にふさわしく、具体的に町を美しくすることから取り組んでいます」
「子どもたちには吉野の桜を見てもらい、この地に愛着と誇りを持ってもらう。そして何より私たち大人がこの町に誇りを持ち、この町を守り続けていくという強い意識が大切だと感じています」
3年後の小中一貫教育校の開校など、この先も、「暮らしたい町」として新たな魅力を作り出すことに余念がない。現在、あたためているのは小学校の跡地を利用しての「道の駅構想」。
「かつて全国から製材業者が集まって、競りを行う原木市場が賑わったように、吉野は交易、交流の場でした。それを現代にも蘇らせたい、観光客と地元客が交流できるそんな場を作りたいと考えています」
2019年4月取材
執筆:高橋秀子 撮影:田村寛維